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ホームスクーラーの小学校卒業資格、中学の学籍が認められないと圧力をかけられたケースについての対応策

2020年12月28日

​ホームスクーラーの小学校卒業資格、中学の学籍が認められないと圧力をかけられたケースについての対応策

 

 先日、ホームスクーリングをしているFさんが、小学校に学籍を置かなかったとの理由で、中学校への進学(在籍)が認められないと言われるケースがありました。結果的にはOKとなり、解決しました。これまで21年あまり、小学校の卒業が認められなかった事例や、中学への在籍が認められない事例等は、チアには届いておらず、一般的にも聞かない初めての事例でした。とはいえ、「中学の学籍」をめぐって法律の誤認に基づく、不当な圧力をかけられる可能性もゼロとは言えません。そこで、そのような場合のために理論武装していければと思っています。

 

■「学籍」の背景

 

 ホームスクーラーの場合、小学校の入学時に学籍を残すかどうか、教育委員会等に尋ねられます。チアとしては、各保護者の皆さんの選択を尊重しつつ、学籍を残すことを薦めてきました。アメリカのホームスクーラーたち(約300万人)は、ほとんど学籍を残しません。政府、学校に依存せず保護者が責任を持つ、また、その介入やコントロールを避け、自由と独立の精神で神さまに頼ってホームスクーリングを進めるという理由等からです。法的にも各州でホームスクーリングの選択の権利が明確に保障されている面もあります。たとえばカリフォルニア州では、ホームスクーリングを届け出れば、法的には私立学校の一つとなります。我が家も「CHEA・JAPAN LA校」として届け出ました。

 

 日本でも、小中の学籍が無くても進学や就職の際に法的なデメリットはありません。高校卒業資格認定試験(高認)を取れば、どこの国公私立大学でも受験は可能です。受験の準備さえしっかりしておけば、難関と言われる大学や学部でもホームスクーラーたちは合格しています(「ホームスクーラーの進路」https://www.cheajapan.com/courseを、ご参照ください)。また、弁護士、医師、教職員、建築士、公務員試験ほか各種国家資格試験等も合格しています。

 

 多様性を認め、人物・実力を求める時代に入っていることもあり、面接等では、逆に「ホームスクーリング卒」が関心を引き、誠実さや積極性、セルフイメージの高さ、折れない心、真面目さ、心の成長ほか、小中高校の学校歴よりも人格面を基盤とした実力が高く評価され、合格していく事例が増えています。

 

 しかし日本全体での認識はこれから進んでいく面があり、学籍があるとメリットもあります。地域での活動(たとえば公式の野球大会などに出る等)などで、選手登録をするときに「学籍」を書く欄があり、必要になったりするケースがあります。それで日本では、学籍があるとまだメリットがあります。学校側も、学籍数によって予算や教員数が変わってきますし、虐待・ネグレクトの有無を確認できる等、メリットがあります。

 

 ホームスクーラーにとって、「聖書に立つ自由と独立の精神」「キリストへの信仰」をしっかりと確保しておけば、学籍を残す大きなデメリットは考えられません。それでチアでは、学籍は残してもいいのでは…と、ソフトに薦めています。とはいえ、「依存」からいつしか「介入・コントロール」となり、ホームスクーリングのスピリットが骨抜きになっていくリスクはあり、気を付ける必要はあります。

 

 そうした中、日本でも、あえて学籍を残さずホームスクーリングを選択される親御さんの選択は、理念にかなった選択でもあり、そのような選択もチアとしては尊重し、各保護者の皆さんに対する神さまの導きとご判断に委ねています。

 

■今回の経緯

 

 Fさん家族は地域のインターナショナルスクールに所属する形でホームスクーリングを始め、それを理由に小学校の学籍を取らず、中学では学籍を希望されました。当初、G市教育委員会は中学の学籍を認めませんでした。

 

※小学校の「卒業」についての規定とは

 

 小学校の「卒業」に関しては、校長の判断と規定されています。「学校教育法施行規則」文部科学省令に、以下の規定があります。

・第27条〔修了・卒業の認定〕 小学校において、各学年の課程の修了又は卒業を認めるに当っては、児童の平素の成績を評価して、これを定めなければならない。
・第28条〔卒業証書〕 校長は、小学校の全課程を修了したと認めた者には、卒業証書を授与しなければならない。

 この小学校に関する規定は、同規則第55条によって中学校においても、また同規則65条によって高等学校においても用いられています。これが児童生徒の修了や卒業に関する法令の規定です。

 

 こうした法令に基づき、学校外での学習が登校扱いになるかどうかは、校長の判断になります。卒業に関しては、小学校の出席日数等の法的な規定はありません。これまでの20年間、チアメンバーで中学に進めなかった事例はありません。また、最近では14万人を超える不登校生が報告され、1日も登校しなかったケースも多い中、小中学校の卒業希望者が卒業できなかったとの事例も聞いていません。18歳以上の引きこもり者数の数は100万人を超えると言われます。そのような人々が義務教育下の卒業資格・学籍を希望した場合、それを却下することは、教育上、ますます追い込んでいくことは明白であり、多くの校長先生も理解しているのが現実であると思います。結果的に、上記の通り、卒業を希望しながら卒業できない事例は報告されていない状況です。

 

 ただしこの夏、関東地方のFさんというホームスクーラーが、小学校の入学時に学籍を置かなかったため、中学に学籍を置くことを拒否されたと相談がありました。Fさんは、学籍を置かない場合に関する覚え書きをG市教育委員会と交わし、そこには「学籍を置かない場合、中学に進学できません」という項目がありました。こうした覚え書きは、「教育機会確保法」ほか憲法や教育関連の法律の理念、そして現代社会のニーズに逆行する古い誤った理念や解釈によったものです。従って、現在の法律に照らし合わせると不当であると思います。幸い、この件は、Fさんのお子さんが在籍予定の中学校の校長が不当に思われ、教育委員会と話し合い、中学校の学籍は認められることに変更されました。

 

 今後、もしホームスクーラーが小学校の卒業や中学校への在籍を希望し、それを拒否するような学校・教育委員会側の言動があった場合、次のような論理で伝えることが可能です(以下は、学籍を持つホームスクーラーIさん親子から相談を受けたと仮定しています)。

 

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 「私はIの保護者として、Iに小学校卒業資格を求めます(あるいは中学校の学籍を求めます)。私の子どもIは、多様な学習活動の重要性に鑑みるように定めた「教育機会確保法」、「教育基本法」そして基本的人権、学問の自由、親の権利等を保証する憲法、また、子どもの権利条約等の国際法、そして私どもが信じる聖書に基づき、最善の教育環境を与えようとの教育理念で、「教育義務」を果たしてきました。「教育機会確保法」の文科省省令(添付)において教育支援をするように定義した「一定の要因または背景によって児童生徒が出席しない」方法を選択し、励んできました。学校、教職者の皆さんに敬意を払いつつ、親や多くの方々の助けの中で、遵法精神に基づいて教育を続けてきました。

 

 全国の事例においても、登校なくして卒業、また学籍の維持は広く認められています。この20年、全国のホームスクーラーで卒業を希望したにもかかわらず、校長のご判断で小学校の卒業資格が与えられず、あるいは中学に進学できなかった事例報告は、私どもがメンバーとして属しているホームスクーリング支援団体「チア・にっぽん」には届いていません。また現在、年間14万人と言われる、ほかの不登校生についても同様です。

 

 今回、小学校課程の卒業資格の希望を伝えたところ、校長のご判断で卒業資格が与えられないとのことでした。それは憲法、また多様な学習活動の重要性に鑑みるように定めた「教育機会確保法」「学校教育法施行規則」等の法令、また文科省省令等から見て、不当です。法令に基づき、全国の不登校生に卒業資格を与えている今日の全国的状況も鑑み、また教育義務、小学校過程の完了もしておりますので、卒業資格をよろしくお願いします。また、中学進学への道を、全国のホームスクーラーたち同様に、公平にご対応いただければ幸いです」

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■南木武輝弁護士からの助言

 

 お書きになった回答でよろしいかと存じます。補足しますと、文科省通知(平成28年6月17日付28初初企第7号)によれば、「1(2) 不登校等により長期間学校を欠席する間に、やむを得ない事情により小学校未修了のまま小学校相当年齢を超過した後、通学が可能となり、中学校等への入学を希望する場合」は、中学校入学を「認めることが適当と考えられる」とされており、本件は、このケースにも該当するものと思います。この通知は、ホームスクーラーにとっては、不十分な内容のものですが、教育委員会と掛け合うときには、指摘しても良い通知であると考えます。